第2節 身近な汚れの正体を深掘りする!
1.水アカ・石鹸カス ― 白い曇りの正体
2.カビ ― 生き物の汚れであることを忘れずに
3.手垢・皮脂汚れ ― 意外と複雑な組成
4.まとめ

田中さんは清掃の仕事を始めて3年目。持ち前の明るさで、あっという間に現場の人気者になった。今日は汚れの科学に詳しいDr.ウッディに、「汚れとは何か?」「なぜ落ちにくい汚れがあるのか?」をレクチャーしてもらっている。第2節 身近な汚れの正体を深掘りする ― 油・水アカ・カビ・手垢
Dr.ウッディ(以下、ウッディ):では、具体的な汚れの話をしていきましょう。まずは油汚れから。換気扇とか、苦労してませんか。
田中:油はですね〜、私の永遠のライバルです。キッチンや休憩室の換気扇、調理台まわり。スーパーだと調理室から出た油に土砂が混じって、床が真っ黒。あれ見るとちょっと武者震いするんですよ。
ウッディ:その黒ずみは、油+土砂の複合ですね。田中さん、水拭きでゴシゴシやって、広がるだけだったこと、ありませんか? 田中:あるある!『なんで取れないの〜!』って雑巾とにらめっこしました。 ウッディ:理由は単純で、油は水と混ざらないからなんです。「水と油」って言葉そのままで。だから水拭きだけだと表面に延ばしてるだけで、「取る」ことにはなっていないんですね。 田中:えーっ、私ずっと油を引きのばしてただけ!? やだもう、早く知りたかったわ〜。 ウッディ:あはは。そんなときは、油を水と混ざりやすい状態に変えてやればいいんです。分解したり、泡で包み込んで乳液にしたり。食用油には、油を分解できるアルカリ性の洗剤がよく効きます。 田中:アルカリ性…さっきの「反対の性質をぶつける」ですね! 油は酸性寄りだからアルカリ性洗剤が効きやすい、っと。あら、私できる子かも。 ウッディ:ええ、すばらしいです! 油そのものは水には溶けないので単純に「酸性」と考えるより、アルカリ性洗剤が油汚れを分解・乳化しやすくしてくれる、と覚えるとより正確ですよ。 さらに厄介なのが「古い油汚れ」。新鮮な油は柔らかくて取れやすいんですが、空気に触れて時間が経つと酸化して、ゴム状・樹脂状に固まってしまう。その固まるまでの途中の状態がベタベタするんです。 田中:あ〜、あのカチカチの! 換気扇の裏にこびりついてる、化石みたいなやつですよね。 ウッディ:それです。そうなると普通のアルカリ洗剤だけでは歯が立たなくて、洗剤を塗ってしばらく置いて浸透させるか、もっと強い洗剤、あるいは物理的にこすり取る必要が出てきます。 田中:こすり取るんですね。いけます! これでも力には自信あるんで。 ウッディ:あ、そこは気をつけてくださいね。固まった油に力任せでこするのはNGなんですよ。表面、特に塗装面やステンレスを傷つけてしまって、その傷に次の汚れが入り込みやすくなる。まず洗剤をなじませて「柔らかくする」のが先決なんです。
水アカ・石鹸カス ― 白い曇りの正体
ウッディ:次は、洗面台や鏡の白い曇り。あれも手ごわいですよね。
田中:水アカね~! 鏡とか蛇口につく白いやつ。あれこすってもなかなか取れなくて、鏡の中の自分とにらめっこですよ。
ウッディ:あれ、実は水道水のせいなんです。水道水にはカルシウムやマグネシウムなどのミネラル分 ― 硬度という数値で表すものですね ― が含まれていて、水が蒸発したあとにそれが残って白い固形物になる。これが水アカの正体です。 田中:水が乾いた跡なんですね。じゃあこれ、何性なんですか? 私のおぼろげな記憶をたどると...昔、おばあちゃんが酢を使っていた気がするんですよね〜。 ウッディ:その記憶、大当たりです! 水アカはアルカリ性なので、反対の酸性洗剤が効くんです。クエン酸水なんかがよく使われるのは、まさにそれですね。 田中:やった〜!おばあちゃんありがとう♪ 私の記憶力も捨てたもんじゃないですね。ふふ、ほめて伸びるタイプなんですよ私。 ウッディ:あはは、ちゃんと正しい答えにたどり着いたってことですよ、すごいです。ただ、石鹸カスはもう少し複雑なんです。実は2種類あって。 田中:2種類? 石鹸カスは石鹸カスでしょ。双子なんですか? ウッディ:ある意味そうですね。一つは、石鹸や合成洗剤と水道水のミネラル分が反応してできる「金属石鹸」。これはアルカリ性なので酸性洗剤で落とします。もう一つが、皮脂と石鹸が混ざった「酸性石鹸」。これは先ほどの食用油と同じような成分の皮脂が混ざっている酸性なので、アルカリ性洗剤で対処するんです。 田中:逆っ!? ややこしい双子ですね〜。どうりで、片方の洗剤じゃイマイチ落ちないことがあったわけだ。 ウッディ:まさにそれです。現場では両方が混在していることが多いので、片方だけだと取り残しが出る。田中さんが「なんか落ちが悪いな」と感じてたの、これで説明がつきますよね。カビ ― 生き物の汚れであることを忘れずにウッディ:次はカビです。田中さん、カビってほかの汚れと違う感じ、しませんか? 田中さん:します〜! なんかね、しつこいんですよあの子。取ってもまた生えてくるの。ストーカー気質なんですよね。 ウッディ:あはは、鋭いです。カビは特殊で、生きている微生物なんです。胞子 ― 種のようなもの ― が空気中を漂っていて、湿気・温度・栄養、皮脂や石鹸カスですね、これらが揃うと表面で繁殖して、目に見える大きな集まりになる。 田中:生きてるんですか! どおりでまた生えてくるわけだ…たくましいなあ。そういえば、カビ取り剤ってなんで塩素系が多いんですか? ウッディ:塩素の酸化力でカビの細胞構造を破壊するからなんです。表面を漂白するだけじゃなく、カビそのものを死滅させる効果がある。だから効くんですね。 田中:ほ〜。じゃあですよ、もっと強力にしたいときって、トイレ用洗剤とかと混ぜちゃえばいいんじゃないですか? ウッディ:あっ、それは絶対にやめてください。本当に危険なんです。塩素系漂白剤と酸性洗剤 ― トイレ用洗剤など ― を混ぜると、有毒なガスが発生します。「まぜるな危険」の表示がある製品は必ず守ってください。実際に作業者の死亡事故も報告されているんです。 田中:えっ…そんなに怖いんですか。冗談で言ったんですけど、笑えない話ですね。聞いといてよかった〜、ほんとに。 ウッディ:知らずにやっちゃう人、本当に多いんです。今日知っていただけてよかった。それともう一つ、カビにいきなりカビ取り剤をスプレーしたり、乾いた布でこするのも避けてほしいんです。胞子が空気中に舞い散って、吸い込んだり、別の場所で新しく繁殖する原因になるので。 田中:乾いた状態でこすっちゃダメなんですね。私ガシガシ拭いてカビをお引っ越しさせてたかも…ごめんなさいね、あちこちのカビさん。手垢・皮脂汚れ ― 意外と複雑な組成ウッディ:最後に、ドアノブやエレベーターのボタン。手垢ですね。 田中:あ〜、手すりとかね。あれは中性洗剤でサッと拭いてました。手垢なんて軽いもんでしょ、って。 ウッディ:実はあれ、意外と複雑なんです。手垢は皮脂・汗・外からの埃が混ざった「複合汚れ」で。主成分の皮脂は油なので、さっき学んだ酸性の汚れだから、基本はアルカリ性洗剤なんですね。 田中:油=アルカリ洗剤、ですね。もう覚えましたよ。じゃあアルカリ洗剤でガッツリいけばいいんですか? ウッディ:それが一筋縄じゃなくて。アルカリ洗剤が使える場合は良いのですが、建材が多種多様で、アルカリ洗剤で侵される素材もあるため、日常清掃では中性洗剤が推奨されます。なので現実的には、田中さんがやってる中性洗剤での日常の拭き取りがいいんですよ。
田中:お〜、じゃあ私の中性洗剤、間違ってなかったんですね! よかった、自信なくすとこでした。 
ウッディ:間違ってないです。日常はそれで正解。そこに「アルカリ洗剤が使える建材であれば、定期的にアルカリでしっかり」を足すと完璧、ってことですね。
まとめ
・油汚れは時間とともに固まるので早めに対処し、洗剤をなじませる時間も効く。  ・水回りの白い汚れには、酸性汚れとアルカリ性汚れが混ざっていることがある。  ・カビには塩素系が効くが、他の洗剤が混ざると超危険。生物なので胞子の飛散にも注意。

たてものサービスより

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